英国民は脱炭素よりも経済と安保?

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今回は英国の世論調査の紹介。ウクライナ戦争の煽りで、光熱費が暴騰している英国で、成人を対象にアンケートを行った。

脱炭素より経済と安全保障を国民は望む:英国世論調査

英国ではボリス・ジョンソン政権が2050年までにCO2を実質ゼロにするという脱炭素政策(英国ではネット・ゼロと呼ぶ)に熱心で、国内にあるシェール・ガス資源の開発をさせなかった。
これを開発すれば、本来であれば、英国はエネルギーを自給できたはずであり、今日のエネルギー危機・生活費危機は起きなかった。

アンケート結果によると、英国の成人の41%が、ネット・ゼロが英国のエネルギー安全保障を弱め、ウクライナでの戦争を踏まえて再検討されるべきだと感じている。

これに対し、ネット・ゼロが英国のエネルギー安全保障を強化したと感じているのはわずか17%である。15%は「何も変わらない」と考えている。

また、英国のエネルギー政策の優先順位について尋ねたところ、51%が消費者にとって値頃であることが最も重要だと回答した。次いで国家の安全保障が26%であり、2050年までにネット
ゼロを達成することとしたのは僅か16%だった。

日本でも、脱炭素の名のもと、政府は石炭火力発電を削減しようとしている。だが、今後ロシアからの供給が不安定になり、世界的に天然ガスの争奪戦になって、価格はいっそう高騰しかねない。
日本は、石炭火力発電をフルに活用することが、原子力の再稼働と並んで、安定で安価な電力供給にとって重要な選択肢になる。

日本でも、脱炭素と、経済性、安全保障のどれが大事か、英国同様のアンケートを取ってみたらよい。国民は何を望んでいるだろうか。

【登録著者プロフィール】●杉山大志氏(すぎやま たいし)

  • キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
  • 北海道生まれ。
  • 1991年 東京大学理学部物理学科卒業。
  • 1993年 東京大学大学院工学研究科物理工学修士了。
  • 1993年(財)電力中央研究所入所。
     国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員、
     国際学術会議科学執行委員、
     京都議定書CDM理事会パネル委員、
     産業構造審議会専門委員、
     IPCC第四次評価第三部会及び統合報告書主著者、第五次評価第三部会総括執筆責任者。
  • 電力中央研究所上席研究員を経て、2017年4月より現職。
  • 環境は過去から変化し続けてきているが、人類はそれに適応し、ここまで生き抜いてきた。人類の「気候変動への適応」の歴史を知ることで、いたずらに温暖化を怖れるのではなく、冷静に対処できるようになるのではないかとの考え方を貫く。
    また人類が絶え間ない技術進歩によって豊かに、安全に、長生きするようになったのと同様、地球温暖化問題もイノベーションで解決出来ると論じる。これまでの温暖化対策の議論から抜け落ちていた、新たな視点で地球温暖化を考え続けている。